奥さんに勝ったところ

村岡さんとの出会いは私が就職してすぐのこと。

 

 

 

 

──ガシャンッ

 

パシャッ──…

 

 

 

W三浦ぁ!W

 

 

Wすすす…すみませんでした!!W

 

 

 

初めて取引先の人にお茶を出すという仕事を任された私は最悪なことにその取引先の人にお茶をかけてしまった。

 

 

 

W大丈夫だよ。だから顔上げてW

 

 

 

優しく笑って、慌てる私にそう声をかけてくれた人こそ村岡さんだった。

 

 

 

こんな出会いからだったからなのか、たまに会社で会ったりすれば話しかけてくれて

 

 

彼に恋に落ちるのにもそうそう時間はかからなかった。

 

 

 

W無理だとわかっているんですが…私、村岡さんのことが好きですW

 

 

 

そう告白時、彼には既に婚約者がいて結婚式を数ヶ月後に控えていた。

 

 

 

W正直言って俺も君に惹かれてた。けど、俺結婚するんだけど、それでもいい?W

 

 

結局私はW不倫相手Wという形で彼の傍にいることを選んだ。
最低と蔑まれても構わない。

 

 

だって、結婚した今でも彼は2週間に一度こうして私に会いに来る。

 

 

 

それだけで、私は幸せなの。

 

 

「夕食どうする?」

 

 

車を運転しながら村岡さんはチラッと私を見る。

 

 

 

「じゃあ、私作ります。何が良いですか?」

 

 

 

「本当?じゃあクリームコロッケがいいな」

 

 

 

ただ会話を聞いていれば、普通の恋人同士。

 

 

だけど、それは見せかけに過ぎない。

 

 

 

「てか、材料はあるの?」

 

 

心配そうに聞く村岡さんに私は頷いた。

 

 

「そう言うと思って材料用意しといたんです」

 

 

 

私の家に来る時、彼は必ずクリームコロッケを作ってと言う。

 

 

クリームコロッケは彼の大好物。

 

 

だけど、残念ながら奥さんはクリームコロッケをうまく作れないらしくなかなか食べる機会がないらしい。

 

 

 

だから、私の所へ来る時は私が作ったクリームコロッケを食べている。

 

そこだけ彼の奥さんに勝ったと思う。

 

 

 

「そういえば、今日食堂でこっち見てなかった?」

 

 

 

村岡さんは車を運転しながらチラリと私を見る。

 

 

 

「たまたま友達と話してただけですよ」

 

 

 

あなたの奥さんが美人っていう話をしていたんです。

 

 

…なんて言えるわけない。

 

 

私は絶対、村岡さんといる時に彼の家庭の話をしない。

 

 

話してしまえば、彼と結婚することが出来ない私は余計虚しくなるだけから。

 

 

出来ることなら私も結婚したいけどそんなことを望んで口にしてはいけない。

 

 

 

「さて、着いたよ」

 

 

 

私の住むマンションの駐車場に車を停める。

 

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

車を降りて、一緒にマンションの中へ入りロビーからエレベーターに乗ろうと上へに行くボタンを押す。