市役所のイケメン

 

「あ、やべ」

 

 

 

待っていると突然、隣のテーブルからそんな声がして私の足下にスマホが転がってきた。

 

 

 

あー、あの声はこれを落としたからか。

 

 

 

私はそれを拾い上げて

 

 

 

「どうぞ」

 

 

そう言って、渡そうと顔を上げると私は固まった。

 

 

 

「ん、君エレベーターの」

 

 

 

「げ…」

 

 

 

最悪…。

 

 

今、いちばん会いたくない男。

 

 

私の悩みの種の原因のエレベーターの彼。

 

 

 

「沙菜、知り合い?」

 

 

 

こずえは小声で聞いてくる。

 

 

それも少し、頬を赤らめている。

 

 

……嘘でしょ?

 

 

 

 

「あっれ、そこの子も可愛いね〜名前なんて言うの?」

 

 

 

 

私からスマホを受け取った彼はこずえを見てにっこりと笑いかける。
「え…っ」

 

 

 

ちょっと、こずえ…あんた彼氏がいるでしょう?

 

 

何ドキッとしてんのよ。

 

 

 

「おい、樋口」

 

 

「あー、はいはい」

 

 

 

彼と一緒に食事をしていた男の人は呆れて止めに入る。

 

 

 

…樋口って言うんだ。この人。

 

 

 

 

「樋口、そろそろ行くぞ」

 

 

 

「わかったよ間宮」

 

 

 

先に席を立った男の人は私たちに軽く会釈して歩き出す。

 

 

それを樋口と呼ばれた彼は追うように立ち上がる。

 

 

 

「ばいばい、可愛い子ちゃん。それと君はまたマンションで」

 

 

 

彼はこずえに笑いかけ、その後私を少しジッと見つめて行ってしまった。

 

 

 

彼が見えなくなると丁度、料理が運ばれてきた。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、沙菜彼と知り合いなの?」

 

 

 

こずえは私を見る。

 

 

「彼って、あのスマホ落とした人?同じマンションの住人みたい」

 

 

 

私はそう言ってフォークを手にした。

 

 

 

「嘘、WあのW彼と同じマンションなの?」

 

 

 

「何…WあのWって」

 

 

 

私は首を傾げる。

 

 

 

「樋口さんよ。市役所勤務の公務員、沙菜知らないの?」

 

 

「え…何、知らない」

 

 

 

何で彼の職業をこずえが知ってるの?

 

 

 

「ほら、前に先輩たちが言ってたじゃん。間宮さんと樋口さんっていう市役所で働いているイケメン2人組って」

 

 

 

…そういえば、入社したばっかりの時そんな話聞いたような。

 

 

 

「何で、こずえ顔まで知ってたの?」

 

 

話聞いたことあるだけでしょう?