甘い声

 

「その先輩に写真見せてもらったことあるの。樋口さんと間宮さんは同期で2人ともすっごいモテるんだよー」

 

 

 

へー。モテるんだあの人。

 

まあ、確かにイケメンだけどさ…

 

 

 

「どうしよう、間宮さんと樋口さん2人に会えちゃうなんて…!すっごいかっこよかったー樋口さんに話しかけられた時もう心臓破裂しそうだった」

 

 

 

うっとりするこずえに私は驚く。

 

 

 

「えー、嘘でしょう?あの人のどこがいいの?」

 

 

 

 

私なんて初めて話しかけられた時、全然違う意味で心臓破裂しそうだったっていうのに。

 

 

 

「沙菜って目おかしいんじゃないの〜?」

 

 

 

「どっちかって言ったら、一緒に食事してた人の方がかっこよかったよ」

 

 

 

ちゃんと、私たちに会釈してくれてたし。

 

 

樋口さんっていう彼のナンパじみたことを止めに入ってくれたし。

 

 

良い人でしょ。なのに何であの男とこうも違うんだろう。

 

「間宮さんもかっこいいよねぇ。でも、駄目よ彼は……ってこんな話して場合じゃないよ沙菜!早く食べないと冷めちゃうし昼休み終わっちゃう」

 

 

 

いきなり慌て出すこずえ。

 

 

 

「うわ、本当だ…!」

 

 

 

 

私も腕時計を見て慌てて食べ始めた。

 

 

 

急いでパスタを食べ終えて、また来た道を走って会社に戻ったせいで午後の仕事はお腹の痛さとの戦いだった。

 

 

 

「沙菜、また明日ね」

 

 

 

会社を出たところで私と逆方向のこずえとはお別れ。

 

 

 

「うん、バイバイ。また明日ー」

 

 

こずえに手を振って、私は電車に乗るために駅へと向かう。

 

 

私の住むマンションから職場までは電車で2駅分。

 

 

基本は電車通勤だけど、村岡さんと会う日は別。

 

 

その日だけは彼の車に乗って家に帰る。

 

 

だから、電車通勤の日は少しだけ寂しい気持ちになる。

 

 

 

「(…早く会いたいなぁ)」

 

 

 

電車に乗って降りる駅まで外の景色を眺めながら何度もそう思った。

 

 

 

それからマンションに着けば、いつものようにエレベーターのボタンを押す。

 

 

エレベーターの扉が開き、中に入って7階のボタンを押して扉が閉まるのを待っていれば1組のカップルが乗ってきた。

 

 

 

 

「(……うわ、最悪)」

 

 

 

エレベーターに乗ってきたカップルを見て私は気づかれないように小さくため息をついた。

 

 

彼氏の方は私を見て小さく会釈をする。

 

 

 

昨日といい、今日といい、彼と何回会えば気が済むんだろう。

 

 

樋口さん、もう名前まで覚えてしまった。

 

 

 

「ねぇ、キスして」

 

 

エレベーターの扉が閉まると彼女は樋口さんの腕を引っ張って甘い声で囁く。

 

 

 

静かなエレベーターの中。

 

その声はもちろん私の耳にすんなりと入ってきた。