そういう仲の一人

 

 

「サヤちゃん、そういうのは部屋でだろう?」

 

 

 

そう言う樋口さんは彼女じゃなくて私を見ている。

 

 

そんなことに彼女は気がついていなくて「焦らさないでよ」と小さな声で言う。

 

 

 

…なんで、私を見て言うわけ?

 

 

私は樋口さんから視線を逸らし、7階に着いたと同時にすぐにエレベーターから降りた。

 

 

 

「最悪すぎる…」

 

 

 

エレベーターでイチャイチャするなって、わかってるわよ!

 

 

でも、その場の空気ってものがある。

 

 

 

「自分だって私が乗ってなかったら彼女とイチャイチャしたでしょう?」

 

 

 

もう扉が閉じて上の階へ行ってしまったエレベーターを睨みつけた。

 

 

 

家に帰ってきて、この苛立ちを抑え部屋着に着替えて夕飯の支度を始めた。

 

 

 

そこで、テーブルに昨日から置きっぱなしだったスマホのランプが青く点滅しているのに気がつく。

 

 

メールを送ってきたのは村岡さん。

 

 

 

──────────

 

昨日はありがとう。
また、今度

 

──────────

 

 

 

たったそれだけの短いメールにも私は嬉しくなる。

 

 

嫌なことを一瞬にして忘れることが出来る。

 

 

 

「ますます会いたくなっちゃうなぁ」

 

 

 

スマホを指でつついて静かに呟く。

 

 

本当の恋人同士のように堂々とできたら、どんなに幸せだろう。

 

 

 

……なんて、思ってはいけないのに。

 

 

 

 

────────────

 

こちらこそ。
ありがとうございました。

 

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私はそう返信し、夕飯の支度を再開した。
──────
────────……

 

 

 

 

「あのさー朝から俺の顔見てあからさまに嫌な顔すんのやめろよ」

 

 

 

どうして、エレベーターが開けば彼が乗ってるわけ?

 

 

 

「別に嫌な顔なんてしてませんよ」

 

 

「嘘つけ、」

 

 

 

まあ、嘘だけど。

 

 

そりゃあ、そうでしょう。朝からあなたの顔を見たら嫌になる。

 

 

 

 

「あ、なあ昨日一緒にランチに来てた子って、彼氏いるの?」

 

 

 

「いますけど、何で?」

 

 

 

「ふーん、残念」

 

 

 

…は?

 

この人何言ってんの?

 

 

 

 

「彼女いるくせに何言ってるんですか」

 

 

 

 

私は呆れながら口を開く。

 

 

 

 

「彼女なんていないけど?」

 

 

 

 

彼女なんていない?

 

 

 

 

「昨日の女性は?」

 

 

「彼女じゃないけど、そういう仲の1人?」

 

 

 

 

首を傾げる彼。

 

しかも、その中の1人って…